2003年1月19日(日)新潟日報社説


<障害者の支援費 福祉サービス後退は許せない>

 四月から始まる障害者福祉の「支援費制度」をめぐり、障害者団体と厚生労働省の議論が紛糾している。
 厚労省がこれまでの方針を突然転換し、ホームヘルプサービスの利用時間に実質的な上限を設けることを明らかにしたためだ。
 障害者団体は「ホームヘルパーの利用が制限されたのでは、地域での自立生活は困難になる。何のための支援費制度か」と反発し、先週は連日、車いすの障害者や支援者が厚労省を訪れて抗議と交渉を重ねた。
 障害者が怒るのはもっともだ。厚労省は一貫して「サービス利用に上限は設けない」と障害者に説明してきた。県や市町村に対しても「上限を設けないように」と指導していたはずだ。
 制度開始を間近に控えての方針転換は関係者を欺くに等しい。支援費制度の理念を損ない、障害者福祉を後退させるものだといっていい。
 障害者の福祉サービスに関して、行政がサービス内容や事業者を決めていた「措置制度」は三月末で廃止される。代わって支援費制度に移行する。
 利用する障害者自身が、受けたいサービスや事業者を選んで、自分の人生を切り開いていけるようにするというのが支援費制度の理念だ。
 介護保険と同じように「利用者本位」の制度に改め、事業者間の競争を促す狙いがある。
 ホームヘルプの上限設定が明らかになったのは年が明けて間もなくのことだ。当初、厚労省は否定していたが、障害者団体の追及を受けて認めた。
 関係者によると、厚労省は一案として(1)身体障害者の日常生活支援で月上限百二十時間(2)重度の知的障害者で月上限五十時間(3)中・軽度の知的障害者で月上限三十時間―を挙げて検討している。
 厚労省は「国庫補助事業なので、上限設定は市町村に補助金を公平に交付するための基準にすぎない。障害者一人ひとりの利用を制限するものではない」と説明する。
 これに対し、障害者団体は「支援費制度の実施が補助金に大きく依存する以上、厚労省の交付基準は市町村への圧力となり、利用時間を制限することにつながる」と反対し、撤回を求めている。
 障害者の不安は的外れではない。厚労省は、障害者団体に追及されて「国の補助金によるヘルパー制度は四時間までで、それ以上のサービスは市町村の責任でやってほしいということだ」との考えを明らかにしている。
 身障者で月上限百二十時間というと、一日にならして四時間だ。これでは重い障害のある人はいままで受けていたサービスを削られることになり、命にかかわる。
 政府は昨年末、四月から十年間の障害者施策の方向を示す「新障害者基本計画」と、前期五年間の重点事項を定めた「新障害者プラン」を発表した。
 その中で、入所施設整備に偏っていた施策を転換し、地域での生活支援を重視する方針を打ち出した。
 支援費制度は、地域で暮らしたいと望む障害者を助ける大きな力になると期待が集まっていた。
 なかでもホームヘルプサービスは、地域生活を支える柱だ。それが十分に利用できないとなれば、障害者は再び、施設か親元へ帰るしかない。
 障害があっても、成人したら地域でアパートなどを借りて自立生活を送りたい。十六日にはそうした生き方を築き上げてきた全国各地の障害者ら約千人が厚労省に詰め掛けた。
 支援費制度への移行も、「施設から地域へ」を掲げた新障害者計画やプランも、結局は障害者施策を縮小・後退させるだけではないのか。
 危機感を抱いた障害者団体は団結し、二十日から再度厚労省と交渉する。支援費制度のスタートを目前にした国の姿勢後退は、あまりにも寒々しく、とても容認できるものではない。